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200年住宅

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今日は恩師Y先生のご実家を測量に行った。大阪市内にある古い日本家屋である。敷地は約100坪あり10年ほど前より「壊してマンションにしようか・・・」「新築に建て替えようか・・・」などと相談を受けていた。だが先生にとって生まれ育ったこの家への愛着は深く、今回はリフォームをして御自身の居住を検討されている。今日初めて中に入ったが、当時の立派な造りで、座敷や庭など昔懐かしい感じはそのままでも十分に魅力ある。このような日本家屋はもはや希少で、できるだけ手を加えながらもそのまま使っていただきたいと感じた。とりあえず、同行したスタッフに実測をさせたが、さて、どのような提案をしたものだろうか?
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現在、国土交通省は「200年住宅」といって、超長期住宅モデル事業を推進しようとしている。私も大阪府木材連合と一緒にその検討会に参加しているが、その中で私が国土交通省へ提言した内容を以下に添付する。

「超長期住宅モデル事業」所感(2008/04)
はじめに

・日本では戦後急速に住宅戸数を確保するために、さほど質の高くない住宅が多く建設された。現在ある住宅で本当に保存の価値のあるものは多くない。しかしこれらの住宅においてさえも、老朽化、耐久性の問題から取り壊される住宅は少なく、むしろ、家族構成やライフスタイルの変化により、住宅の機能や性能が充分に対応できなくなったことに起因することが多く、特に何らかの事情のない限りは経済的な合理性が優先され解体に到る。
商品化住宅
・現在の日本では家がある程度充足し、経済が成熟すると共に効率の良い品質が求められた結果、住宅は住宅メーカーを中心にリスクのある現場作業を極力少なくし、工場で品質管理する欠点のない商品と化してしまった。それになれてしまった消費者やマスコミは小さなキズも欠点として問題化することになる。結果、さらにそのリスクを回避するために、自然材料や職人による現場作業は減少してきた。
・ このように品質管理された工場生産品の「商品」となった住宅。欠点がなく均一で、フリーメンテナンスの商品を使い込んで愛着が芽生えるであろうか?これらの商品は新品が100%で時間と共に魅力を失っていき、そこに愛着は生じにくいため、新製品が出ると取り替えることになる。
・では愛着はどこから生じるのだろうか?それは人がどれだけ手間ひまをかけるかである。従来家をつくる場合、自分達が細部にこだわり、職人が手間を掛けてつくってくれる。80%程度の出来上がりでも、使い方やメンテナンスによって50%にも120%にもなる。気持ちが入り、手がかかるから、愛着も生まれるし、それを引き継ぐ人間にまでその気持ちが伝わっていく。車や家電は古くなれば買い換えるが、手をかけて作くられた工芸品や、職人の使い込んだ道具などを、簡単に新しいものと取り替える人はいない。
・「均質な品質=没個性・退屈」となり、そこには欠点がなくなると共に、愛着を生じさせる隙間もなくなってしまった。
・即ち、住宅を200年以上持たせる構造やシステムの提案は、経済性を除けば技術的にはさほど難しくないが、30年以上にわたって愛着を維持するのはかなり難しい。単に耐久性やメンテナンス、機能性ばかりでなく、その家に対する気持ちや想い出が必要で、時間と共に味わいが増す材料や作り方も必要になる。最近では「100年間愛された家」は「新築の家」よりも価値があると考える人は最近では少なくないし、そのような家はさらに長く大切に使われるであろう。
・現在のようにクレームを恐れ、リスク回避と経済効率が優先され、住宅が商品化されてしまうと、いずれ日本が世界に誇る熟練の大工も左官など腕のいい職人も激減する。難しい仕事の機会がなければ技術や文化は確実に衰退してしまい、日本にとって取り返しの付かない大きな損失となる。
・設計者や施工者が責任を持って職務に従事することは当然ながら、建築主も誰をパートーナーとして信頼・発注するかという大きな責任もあると言うことを認識していただく必要がある。
法整備
・建物を長寿命化するには、現在の法整備にも疑問が多い。エネルギーや環境の問題を考えるとき、古い建物はどうすれば再度魅力を取り戻すことができるかを考えるべきであることは明らかである。然るに、古い建物は現行規制に合致させなければ手を加えることもままならない。建設当時の規準での建築も、法規制が変わると、今まで安全とされていたものが、急に「既存不適格」という失敬な名称で増改築さえ難しくなる。少なくとも、現行よりは不利になることはない改修、明らかに改善される改修は、あくまで建築主の責任において認めてしかるべきでなかろうか。
・建物の長寿命化を促進する上では、改修やメンテナンスの費用に対する費用に関しては、税制上もっと優遇措置があってよいのではないか。
取り組み方針
・日本の優れた技術を後世に伝え、日本の文化を継承するため、また愛着ある家つくりをするためには、そこに気持ちの伝わる地場の工務店や設計事務所、材木、大工や左官、建具屋などの職人への支援が急務である。
・一般的にこのように手を掛けてモノをつくることは労務費の高い日本ではコストが高くなるため、消費者の負担が増える、若しくはその機会が失われることが多い。従って、その部分を補助・支援するシステムや、ネットワークつくりが必要と考える。複合の建築物での補助は難しいため、地場産業、各種団体との協同で、優れた材料や職種を選定したうえでリストとして認定を受け、各工種ごとに補助を要請する。
・実際にこれから家を建てたいと考えている消費者を会員として「愛着の持てる家つくり」例えば無垢の木の良さや性質(節、反り、割れ・・・欠点ではなく特性である)についてセミナー、ワークショップ、参加型の家つくり・・・などを通して、エネルギー、環境への負荷、資源の大切さ、日本の伝統技術や文化、そして長寿命住宅の必要性を啓蒙する。
・化石エネルギーに頼った便利さ快適さを、四季や自然環境を楽しむスローライフこそ気持ちが良く豊かだと感じられるように、意識をLOHASに啓蒙。
・新建材、工業製品などは、コストは安く、品質も安定しているが、生産にも廃棄にもエネルギーを消費し、環境に大きな負荷を与えている。トレーサビリティ(物品の流通経路を生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態)のある家つくり。・・・など

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